そんで今、とんでもないことになってます!

 

その前に簡単にこれまでの経緯を回想。

諸々あって、放課後、待ち構えていた皆守に捕まって、あたしと八千穂君も合わせた3人で下校することになったのでした。

八千穂君は朝からずっとあたしの面倒を見てくれて(まあ、面倒かけてたつもりはないけど)帰りも寮までの道が(いや、とっくの昔に覚えてるんだけど)判らなくなっちゃいけないからって、最初に誘ってくれたのは彼だった。

その後で皆守が合流して、3人で帰ったというわけ。

ただ、あたしは屋上での一件があって気が気じゃなかったし、皆守と八千穂君も微妙な空気を形成してたから、凄く楽しかったとか、そういうのはないんだけどね。

それで、寮について、とりあえずばらばらに部屋に戻って、その後あたしは、八千穂君に誘われて一緒にマミーズってレストランまで夕ご飯食べに行ったんだ。

お風呂も誘われたんだけど、さすがに―――それは、丁重にお断りしておきました。

っていうかあたしお風呂どうしよう、やっぱプールのシャワールームにでも忍び込まないとダメかなあ。

事前に入手しておいた天香の敷地内施設図が、早速役に立ってますよ!

んで、部屋に戻ってきた途端、待ち構えていたように、端末にメールの着信があった。

送信者は皆守甲太郎。

なんだかなし崩し的に番号を教えられて、あたしも教えたんだ。

あ、八千穂君のも登録してあるよ。

そんで、恐る恐る開いて読んだら、今からいらっしゃるとかで、縮み上がったあたしの耳にドアをノックする音が聞こえてきて―――

 

早いよ!メールいらなかったじゃん!

 

なんて思う間もなく。

どんな脅迫をしてくるのやら、気合入れなおして、がっつり戦ってやるつもりでいたのに!

 

(これは、どういうことだー!)

今のあたし、とんでもない状況。

何がとんでもないって、そりゃとんでもない、とんでもないですよ、大変なの!

何故なら今、上半身全裸。

ベッドに押し付けられていて、上には皆守、掌が、胸をまさぐってます、ヒイッ

「や、ヤダッ」

「黙れ」

キスされた、ギャー!

 

―――今、激しく混乱しているあたし。

えーっと、確か、ホントは女なのかとか聞かれて、仕方ないから白状したら、触られて、剥かれて、黙っていてやる代わりに対価を払えとか、そんなこと言われて。

 

(だ、だからって、これは)

 

何かね、なんか、ヤバイと判っているんだけど、どういうわけだか―――体が全然、動きません。

手足が強張ってて、先端が冷たくなってて、でもあっつくて、心臓がバクバクいってて、まともに考えられないし、動けない、息もできない。

怖い。

 

「い、嫌」

「対価だって言ってるだろう、おとなしくしろ、それとも、大声で騒がれたいのか?」

それも、嫌。

キスして、触って、揉んで、撫でて、吸い上げて。

体中で蠢く、あたしじゃない気配。

皆守の吐息が肌の上に吹きかかる。

舌先がちろちろ動いて、指がそこらじゅう這い回って、ポタンが外れて、チャックが下されて、手が、手が、下着の中に―――

 

がちゃり。

 

(がちゃり?)

 

「ごめん、開いてるみたいだからお邪魔するよ、玖隆君、明日の―――」

 

え?

 

ばさッ

 

何か落ちた音。

ギュって瞑ったままだった目を開いたら、視界の殆ど全部を覆いつくしていた皆守が体を起こして、何か見てた。

あたしはその向こうに見える天井を眺める。

あー、あんなところに染みが、何か顔みたいだな。

 

「な、えっ、え?」

 

うん?

 

「あれ、あ―――く、りゅう、く、え、皆守?―――えっ」

 

チッて舌打ち。

直後に、バタン、ガチャって音がして、どたどた戻ってきた足音がすぐ傍まできたら、皆守が凄い勢いでベッドから引き摺り下ろされていった。

あたしはようやく首だけで、何事か起きてるのか様子を窺う。

「皆守ッ」

視界に飛び込んできたのは、凄い剣幕の八千穂君。

振りかぶった拳をひょいってよけて、皆守も物凄く不機嫌な顔で八千穂君を睨み付けている。

「な、何だこれ、お前、いったい何を」

「みりゃわかるだろ、野暮め」

「玖隆君に何してるんだ、このッ」

勢いでこっちを見た途端、八千穂君の顔が擬音付で真っ赤に染まった。

口を半開きで固まっているから、あたしはぼんやり自分の格好を改めて見直して、それから、思わず小さい悲鳴と一緒に、手近な布を引き寄せた。

「あ、あの、あのッ」

そそ、そうだった、ようやく意識がはっきりしてきた!

あたし、今、皆守に―――犯されちゃうところだったんだ!

サーって青ざめて、同時に、八千穂君にも女の子だってばれたんだって気付く。

ああもう、なんというか、何もかもメチャクチャ。

これは、何をどうすればいいんだろう、すっかりオーバーヒート状態。

2人で顔を赤くして、ガーンって固まってる傍で、皆守だけ悠々とアロマパイプを燻らせていた。

物凄く嫌な空気の中、奴のラベンダーの香りが物凄く今更気味にふわふわ漂ってる。

幾ら抗ストレスとか、鎮静効果があるっていったって、今はそんなもん、効き目なんてあるわけないよ!

 

「それで」

更に数分後。

ようやく、なんとか、それぞれ(ッていってもあたしと八千穂君だけのような気もするけど)落ち着いて、今は3人で向かい合うように座り込んでいる。

皆守は勉強机の椅子に。

あたしはベッド。

八千穂君は床に直座りで正座。

神妙な面持ちのあたしたち2人と、やっぱりめんどくさそうにしている皆守、この野郎ッ

「じゃあ、理由は言えないけれど、玖隆君、いや、玖隆さんは、男子のフリをして転校してきたっていうわけなんだね?」

「う、ハイ」

八千穂君は確認をとった後で、皆守の事をじろりと睨み付ける。

どうにも、あたし以上に怒ってくれているみたい。

本当にいい人だったんだ、ちょっとだけ嬉しいぞ。

「人の弱みに付け込むなんて、それに、あんな、とんでもないこと」

言いながら八千穂君の顔が赤く染まっていく。

聞いているあたしもちょっと頬が熱い、改めて、結構、その、凄く、恥ずかしい、かも。

「フン」

皆守はつまんなそうに鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまった。

こいつは無茶苦茶最低だ、最悪な男だ。

「で、どうするつもりなんだ」

(はい?)

チラッと八千穂君を見て、真っ黒な瞳が、今度はあたしを真っ直ぐ見据える。

「俺は、まだ対価を払ってもらっていないぞ」

「皆守!」

立ち上がりかける八千穂君。

あたしは体を硬直させて、俯いて、必死に考えた―――どうする、どうすればいい?

「なんなら」

「何?」

「八千穂も混ぜて、楽しむか?」

「おいッ」

「冗談、俺だって嫌だ、お前なんか混ぜて楽しいわけないだろ」

すっごく不機嫌そうな皆守と、同じくらい険悪な八千穂君。

八千穂君はともかく、こいつが機嫌悪くしてる意味がわからん、まさか、あたしを食い損ねて怒ってるんだろうか。

こんがらがって答えを出しそびれていたら、ベッドの隣がちょっと沈み込んだ。

顔を上げて振り返ると、八千穂君が腰掛けてる。

赤い顔のまま、背中から片方の腕を回して、もう片方の手は反対側、両肩をしっかりと掴まれた。

「大丈夫」

「え?」

「僕は、誰にも言わない、それに、皆守にも、喋らせないよ」

「オイ!」

皆守の声。

「皆守はああ見えて、案外他人想いのいい奴なんだ、だからきっと、喋らないでいてくれる」

―――えーと、じゃあ、さっきの一連の鬼畜行為は?あたしの夢ですか?

「あのなあ、八千穂、人のことを勝手に」

「女の子が困ってるんだぞ、どうしてそう意地悪するんだ、皆守だって、本当はそういうタイプじゃないだろッ」

皆守は後頭部をガリガリ掻き毟って、うなり声を上げながら俯いちゃった。

なんだこれ。

もしかしなくても、こいつ、八千穂君が苦手なのかな?

八千穂君は皆守をじっと見て、それからあたしを見詰めると、不意にニコッて笑いかけてきた。

「だから、君の事は、僕たちだけの秘密にしておこう」

「えッ」

「ずっと不安だっただろう?ごめんね、早く気付いてあげられなくて」

いや、気付かれちゃまずかったんですってば。

(同情までされて、あたしってば)

ほ、本部に報告は―――あえて上げないでおこう、2人くらいならまだ誤魔化せる、ハズ。

「でも、これからは僕達のこと、気兼ねなく頼ってくれていいから」

僕、達?

皆守も似たような目で八千穂君を見てる。

「困っている時はお互い様、男子寮じゃ、何かと不便だよね、うんうん、よし、皆守、玖隆さん、いや、玖隆君の事、助けてあげようね」

「はァ?」

あたし達(達って区切りは気に食わないけど)ポカーンと口半開き。

八千穂君だけ、凄くいい提案をしたって顔で、満足そうにニコニコしてる。

何だこれ、いや、助かるけど、でも、なんだこれ!

「改めて、これからよろしく」

掛け値なしの笑顔と一緒に手なんか差し出されちゃって、あたしは―――

 

握手、し返すしかありませんでした。

 

八千穂君が皆守を連れて出ていった後の部屋、1人で暫く放心していたあたしは、ハッと我に返って、頬をパンパンと叩いた。

そうだ、ぼんやりしてる場合じゃない、仕事仕事!

(何か、色々、想像もしてなかった展開になっちゃったけど)

結果オーライ、これはこれでよしとする、うん。

気懸かり事項の一つも、多分、解決したみたい?だし。

「ようっし、行くか!」

切り替え早いのがあたしのいい所なんだ。

協会からあらかじめ届けられていた、探索要品一式の詰め込まれたトランクを引っ張り出して開きながら、ようやくあたしは本来の目的、そんでもって宝探し屋としての自分に、気持ちが切り替わり始めていた。

 

(終)